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イベントレポート|都市化するアジアにおける“暮らしの中のケア”の未来


「都市化するアジアにおける“暮らしの中のケア”の未来~タイ・バンコク フィールドワークでの学びをシェア〜」を2月26日、特定非営利活動法人エティックと共催でオンライン開催

Community Nurse Company 株式会社は、特定非営利活動法人エティックと共催(助成:国際交流基金アジアセンター アジア・市民交流助成)で、「都市化するアジアにおける“暮らしの中のケア”の未来~タイ・バンコク フィールドワークでの学びをシェアします」を2月26日に開催しました。新型コロナウイルスの国内発生に伴い、オンラインでのみで開催に急遽変更しましたが、当日は総勢30名強、多くの方々にご参加いただきました。

 

IMPACT LAB for Asia(アジアの共通課題に取り組む実践家のための相互学習と共創)の
パイロットプログラム

2019年11月、タイにおける共助型、民間主導型のコミュニティケア事情の学びを目的として、エティックが主催するIMPACT LAB for Asia(アジアの共通課題に取り組む実践家のための相互学習と共創)のパイロットプログラムを実施。共助型・民間主導型のコミュニティケアの実践家、研究者の代表として、看護師の中澤ちひろさんと医師の密山要用さん、デザイナーのTechit Jiroさんの3名が参加しました。およそ1週間の滞在の中で、行政主導、住民主導の活動、また民間企業や非営利組織の活動など多層的にケアの実態を知り交流するフィールドワークを実施しました。

 

スピーカー

中澤ちひろ(看護師/Community Nurse Company 雲南拠点代表)
島根県雲南市で、空き家を活用した地域の世代間交流の場に、訪問看護ステーションを開設し運営を行っている。また、コミュニティナースとして、医療人材が住民の暮らしの側で様々な分野の人たちと共に、毎日の楽しみや生きがいを作る活動を推進し、地域の賑わいづくりや、地域の困ったを解決できるしくみづくりに挑戦している。


密山要用(家庭医/東京大学医学系研究科)
家庭医療専門医、コミュニティドクター。主に家庭医として東京と栃木の二拠点で診療しながら、医療者の学びをサポートする教育/研究活動と団地や屋台を生かした健康づくり活動を実践をしている。全体を通して探求しているテーマは、そのひとらしく最期まで暮らすための場のつくりかた。


Techit Jiro(デザイナー/SATARANA)
バンコクを拠点にする考古学とイギリス文学専門のグラフィックデザイナー。なるべく多くの人と時間を過ごし、物事を観察し、都市を巡り、コミュニケーション・デザインの可能性を常に探っている。SATARANA(日本語で「公共」という意味)という学際的なチームに所属しており、バンコクをはじめとするタイの町を住み心地よい場所にする活動を展開している。

 

なぜ都市というテーマなのか?

密山さん:

世界的に都市の人口が増えている中、世界の55%が都市に集中し、うちアジアの都市に53%が閉めていると言われています。(※1)日本では、関東が世界最大の人口規模をもつ都市でもあり、日本においても、都市化する世界でどう生きるかは重要なテーマです。この「都市」については、以下の2つの視点で捉えることができます。

都市の人口増加に伴い、都市には特有の健康問題が出現しています。都市の健康問題を捉える枠組みとして、都市の生活環境要因、社会経済的要因、ヘルスケアサービスの3つが挙げられています。(※2)

特に医療側から見た「都市」として、都市に特有の健康問題の出現があります。それらは3つの枠組みで捉えることができます。1つは、住居や運動スペースの不足、交通渋滞や大気汚染といった生活環境要因。2つめは、収入や教育の格差や人とのつながりの不足などの社会経済的要因。3つめが、医療サービスへのアクセス要因であり、医療が高度に専門化する一方で、アクセスへの格差が生まれています。これらの問題は、社会や生活環境と密接に絡んでいて、下記の図を見ていただくと分かるように、大きな影響を与えています。なので、医療内外のさまざまな専門家や、コミュニティナースやドクターが市民と共同していこうとしている状況が、各地で行われています。

実際に、健康の社会的決定要因として、遺伝や医療行為が影響を与えるのは20%というデータがあり、現在暮らしている社会、行動が大きく影響するというデータがあります。「環境」を変えていくこと、作っていくことがが医療のなかでも考えられています。

さらに、つながりと健康に関係しているエビデンスもいくつかあります。たとえば人とのつきあいが、週に1回未満、孤立状態が健康リスクに影響を与えることがわかっていたり、食事は、1人で食べるよりみんなで食べるほうが鬱になりにくいというデータもあります。

このように、人とのつながりなど社会的な要素に働き替えることが、結果健康につながることがすでに自明となっているのです。

ただつながればいいのかというと、強いつながりは面倒なものでもあったりします。例えば、緩やかなつながりのほうが自殺は予防する因子になるんじゃないかという意見も言われていたりします。こういった知識や考えも医療関係者はもっていて、直接介護をしていくケアだけではなく、関わる環境を自分たちの強みを生かしてよくしていく、住みやすくしていくことが健康につながるということが、今回のプロジェクト、そしてこの報告会でのベースの考え方です。


 

ただの“おもてなし“にならないコーディネートはケアになりうるか

中澤さん:
タイで印象的だったことの一つとして、働き方が様々で、暮らしと共に緩やかに働くということが存在しているということでした。
タイには屋台が沢山あるのですが、暮らしの動線に屋台がある。そして自分の強みと自分にあった働き方をそれぞれ持ちながら、働くという社会との接点が多様にあったのが興味深かったです。例えば、お店番をしている最中は、働くことでもあり、暮らしも存在している状態なんです。仕事と生活が緩やかに合わさって、その中で自分の役割を見つけて、存在している状態。もっと日本で広げていきたいと思ったポイントでした。

また、視察の中で病院などにも行きました。特に、印象的だったのは、病院の下の管轄のヘルスボランティアの人の拠点となるヘルスプロモーティングホスピタルという現地語でアナマイと呼ばれる保健所があります。視察に行ったアナマイは看護師も駐在していました。ヘルスボランティアを活かした取り組みが盛んにおこなわれているて、デイケアに混ざらせてもらいましたが、そこでは、ケア、というよりは、「楽しさ」を創造することに、全力で着手しているなと感じました。

例えばこの写真の真ん中のおじさん、ゲームであたってしまって、ベビーパウダーを顔に塗られてしまうんです。とにかく羽目の外し方がすごい(笑)。快適だからデイケアにいく、というよりは楽しいから行くんだと思います。そして、ボランティアだけが楽しさを作り提供するのではなく、来ている高齢者の中にもピエロとして場づくりをしている人たちがいて。提供する側とされる側が共に楽しいを作る環境、それが羽目を外し方につながっているのではないかと思いました。ただの“おもてなし“にならないコーディネートが大事だと思いました。

また、デイケアではゴルフカートをつかって送迎をしています。横に何の柵もなく足腰の弱い高齢者をどう危なくないようにするのかとリスクを考えてしまいますが、アイデアと工夫、実現に向けたアクションをとるということも一緒に創るということがあるからこそできるのかと。一緒に作ることはリスクも一緒に背負うことができるのではないかと感じました。
 

暮らしの中にはどんなケアがある?

中澤さん:

タイの方は自分のお家でご飯を作るのではなく、基本は外食、さらに世帯を超えた食文化がありました。食べる場所が外に開けてあり、そこでの交流も沢山ありました。さきほどのデイケアも集まりに食事は欠かせない1つのコンテンツで、人が集まると必ず食事があって、当たり前にみんなで囲む。この文化も素晴らしいものでした。

アナマイの活動の一環で、自宅訪問があります。私たちも、いくつかのご自宅に同行させてもらいました。このおじいさんがいつも身近に置いている籠の中は、降圧剤もあれば、アロマのような、匂いでリラックスするものや、読経の棒が一緒に入っていました。読経の棒は、お経を一小説を読むごとに数える棒ですが、お経はこの方にとってこころやからだを整える手法になっていました。

また、病院敷地内には広場があり、そこは宗教の場所でもあり、カラオケや雑談したりする人もいる。本当にいろんな人たちが様々にそこで過ごしている。そんな余白のある場所がありました。活気がある空間で、目的別に隔てるのではなく、バラバラにしないような余白であり接点が生まれる場があるなと感じました。

バンコクという都市は今まさに急成長し、急速に暮らしが変化していくなかで、一見町の人が元気になるポイントとは違いそうに見えながらも、町の中でケアとなりうる今ある大事なポイントを維持したり、新しくデザインし直しながら発展していくことが大事だと思います。

その点については、暮らしとの接点や人との交流をデザインするテシットさんのようなかたと一緒にディスカッションしながら、一緒に考えて実践していくことが大事だなと思いました。

密山さん:
個人的には降圧剤とメンソールとお経が同じレベルで捉えられているというのは印象的ですね。医療専門職並列で受け取ってもらえていることに希望があると思いました。
 

公と私が混在するからこそ、コミュニティケアが生まれやすい?

テシットさん:
日本人からみたリサーチは、タイ人である私にはない視点で、タイ社会を見るうえでフレッシュな視点でした。
私の見解ではありますが、タイの文化として公と私がぼやっとしていて境目がない特徴があると思います。たとえばバスの運転手が車いすの方のためにバス停以外で止めることもよくあったり、コミュニティケアと呼べるかはわからないがそういう生活文化はベースとしてあります。

私自身は、仕組みよりも感性を大事にしているし信じているところがあります。仕組みは腐敗することがあるし、人間の感覚の方が信頼できると思っているからです。そんな中で、やはり公共空間の使い方は、人の多様性が見て取れると思う。例えば、道に居る占い師など、路上でいろんな活動をしています。生態系、支えるシステムが崩壊していると人々は立ち上がるものだと思います。たとえば建築にも似ているが、大きなビルにひびが入ったらパッチワークみたいにビルが倒れないようにして工夫するのに似ている。この売り子さんは協力をしたり話しをしたりしています。大きなストラクチャー人の力は弱いので1人1人がそれぞれの形で協力することが必要になる。そして公共空間はあまりないので自分たちで用意して、人と何かを交換したり交流をしています。それがタイの現状なのだと思います。

私が活動する拠点は、旧市街地です。ここにサタラナのofficeがあります。なぜ旧市街地で始めたのかというと、旧市街には文化遺産やローカルのコミュニティの価値があるからです。そしてコミュニティデザイナーとして価値が生み出せると思いました。しかし旧市街で活動するのは地上げや、都市化や経済格差や都市の集中という問題点も沢山あり冒頭の都市の課題と共通点があります。

私たちは研究者ではないけど日々の生活の中で感じる、その感覚を大事にしています。例えば、大きなショッピングセンターが貧困街の隣にできたりする。それによって、露店が追い出されてしまう現象があります。こういうことが都市の衰退を引き起こしていると考えています。そしてこの衰退は一か所ではなく、複数起きていて、私たちはそれを止めて衰退の代わりに生き返らせていきたいと。これは大きなチャレンジだとおもうので、色々なパートナーと組んで一緒にやっていく必要があると思っています。

市民参加型で情報を集めるうえでは、データベースからひっぱるのではなく住民の声を聴くことを大事にしています。仮にその声がデータと重なっていたとしても、聴くことによって彼らのオーナーシップを高めていくことをしています。グラフィックデザイナー視点で言うと、みんなで地図を作品を描いていくようなプロセスですね。

そして彼らの時間を無駄にしないことが大事なので、その声を持ちかえってデザイナーチームでなにかしらの方法で可視化してもらってお返しができるようにしています。商品のデザインに落とし込むこともあるし、公共に意識を向けてもらうようなデザインをしたりもします。

ここで先ほど話した次世代のバス停をデザインするプロジェクト。われわれと市民がデザインチームをつくって一つのバス停をハックすることから始めたのですが、これが好評で今やバンコク市内の5000のバス停が私たちのアイデアを取り入れています。このプロジェクトだけで2年間費やしましたが、これまでに200~300人の市民がこのバス停のデザインに参画しています。そんな活動を今後も展開していきたいと思っています。

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トークセッション終了後は、参加者も交えたディスカッションとなり、盛況に終了しました。

このIMPACT LAB for Asia(アジアの共通課題に取り組む実践家のための相互学習と共創)のパイロットプログラムは、次の企画として、タイのホステルでコミュニティナースが活動するプロジェクトや、アジアのデザイナーたちがコミュニティナースの拠点がある島根県雲南市に訪れフィールドワークの実施など、このプログラムを皮切りに更なる社会実験を展開していく予定です。

今後の予定は随時コミュニティナースカンパニーよりお知らせして参ります。

 

(※1)United Nations. World Urbanization Prospects 2018.参照
(※2)Galea, Sandro, and David Vlahov. Urban health: evidence, challenges, and directions. Annu. Rev. Public Health, 26, p341-365, 2005. 参照