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コミュニティナースが店長のカフェで「おいしい」からはじまる地域づくり|福井市まあるカフェ


2020.09.20

コミュニティナースのストーリー
vol.02_福井県福井市 まあるカフェ

「コミュニティナースが運営する、まちの癒しのカフェ」

2020年7月2日、福井県福井市にオープンした『まあるカフェ』は、コミュニティナースが店長を務める新しいスタイルのカフェ。
地域の人の「おいしい」や「楽しい」といった和みの日常空間に、さりげなくコミュニティナースがいることが大きな特徴です。医療ケアが必要な子どもたちと家族を支える『オレンジキッズケアラボ』に隣接しています。
『まあるカフェ』の仕掛人は、福井市などで地域医療に携わっている医師の紅谷浩之さん。
オープニングスタッフでコミュニティナースの冨居ゆかりさんと加藤瑞穂さんも交え、お三方にお話をお聞きしました。

『医療法人社団オレンジ』理事長・医師紅谷浩之(べにや・ひろゆき)さん
『まあるカフェ』店長・コミュニティナース:冨居ゆかり(ふごう・ゆかり)さん
『まあるカフェ』店員・コミュニティナース:加藤瑞穂(かとう・みずほ)さん


“人と人”として自然にまちのなかで出会えたら

——紅谷先生は福井市で、2011年に在宅療養支援診療所『オレンジホームケアクリニック』、2016年に内科・小児科外来や訪問診療の『つながるクリニック』を開設され、2020年には長野県・軽井沢町に訪問看護ステーションや診療所、病児保育室、デイサービスを兼ね備えた『ほっちのロッヂ』を開設されました。幅広いご活動をされていますが、どのような思いからカフェをオープンしようと思ったのですか。

 

紅谷:私は在宅医療で重い病気や障害がある人のご自宅にうかがっていますが、実は自分の生活のなかで生き生きとしている人がとても多いんです。また、生まれつき病気がある人は「私は○○が得意」といった思いを持ちにくい傾向がありますが、一人ひとりと関わり続けていると「その人が好きなこと」が見えてきます。その人がそれに触れ、元気になっていく姿に寄り添ってきました。

 

こうした活動のなかで、「“医療者と患者”という出会い方・接点ではなくその人の暮らしや好きなことに近いところで、“人と人”としてもっと自然にまちのなかで出会えたら」と考えるようになりました。患者としてケアを受ける立場ではなく、生き生きとその人らしくいる。そうしていれば、その存在が仲間として周囲に勇気を与えることもあるだろう、と。

 

そんなときにコミュニティナースの存在を知り、僕たちも約10年前から「地域看護師」という言葉を使って活動していましたし、共感したんです。

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——医療や福祉ではない切り口で出会うということですね。その一つの形が『まあるカフェ』。


紅谷:はい。最初のドアが医療や福祉だと、ずっとそういう関係になってしまいがちです。そうではなく暮らし寄りで、「おいしい」、「楽しい」、「心地いい」という入口から関係性をつくっていこうとしているのが『まあるカフェ』です。つらさをケアするとか、何を助けてほしいか聞くとか、そういう出会いではないということです。

 

ここは、なんでもできそうなカフェ

——そこで要になるのが店員のコミュニティナースということですね。冨居さんと加藤さん、それぞれの経歴を教えてください。


冨居:私は
富山県出身で、病院で看護師として働いていましたが、人ともっとゆっくり関わりたいと思い、訪問看護の道へ進みました。看護の仕事はとても好きで、自分らしく看護の仕事を続けられる働き方を探していて、Facebookで偶然知ったのがコミュニティナースでした。

 

その人が元気なうちからアプローチできるところに魅力を感じ、2016年に「コミュニティナースプロジェクト」の2期に参加したところ、似たような思いをもっている人たちに出会えたんです。それまで「自分は間違っているのかな。看護師にむいていないのかな」とも思っていたのですが、こういう形もアリなんだと思えました。その後は、個人的に富山の地域でコミュニティナース活動をしていました。

 

加藤:私は福井県出身で、『まあるカフェ』のある福井市が地元です。これまで3年間、訪問看護師として働いていました。看取りを含め「その人らしく最後まで生きることができる地域づくり」を軸にしていて、医療者だけではなく地域の人こそが「その人らしさ」を支えられると実感してきました。

 

そういう地域づくりを意識したとき、人をつなぐことができるのはコミュニティナースだと感じたんです。亡くなった祖母が保健師で地域訪問をしていたことも影響しています。2019年に「奥大和コミュニティナース養成講座」の2期に参加しました。『まあるカフェ』では、“人と人”として出会うことからはじまる地域づくりが展開していけると思っています。

まあるカフェのエントランス前で(左:加藤瑞穂さん、右:冨居ゆかりさん)

 

——『まあるカフェ』は、どのようなお店ですか?


冨居:もちろん飲食もできますし、店員やお客さんどうしがコミュニケーションをとりやすいよう、仕切りがなく開放的なつくりになっています。私はキッチン、加藤がフロアをメインに担当します。ただ、二人とも
カフェ店員に徹するというよりも、あくまでコミュニティナースとしてこのお店にいるというスタンスです。

 

紅谷:カフェは、誰をハッピーにしてその連鎖がどうつながるかをイメージできるほど、伸びると思うんです。お母さんが笑顔で子どもも元気で……といった連鎖反応を広げていくのはコミュニティナースの得意なことですから、親和性があります。

 

加藤:多様なニーズが出てくると思います。このカフェを通して、ニーズに応じてつながり合っていけたらいいなと。小さな複数のコミュニティの集合体になって、カラフルな感じでやっていけたら。

 

冨居:月に1度ほど交流イベントを開催する予定です。外にフリースペースがあり、ゆくゆくは音楽や映画のイベントができたらいいなとも思っています。

立ち上げスタッフのみなさん

 

——開店準備で大変だったことは何ですか?


冨居・
加藤:料理修業です(笑)。

 

加藤:飲食店を経営している協力者がいて、メニューを一緒に開発しました。メニューは、スープカリー、パスタ、ハンバーグステーキなどの料理と、スイーツ、ドリンクがあります。にんにくから炒めてソースをつくるなど本格的に料理をしていて、今は聴診器ではなくフライパンを手にするナースになっています(笑)!

 

冨居:おすすめメニューは、福井・武生のソウルフードのボルガライスを活用した「ボルガナーラ」というパスタと、生地からつくっている「パンケーキ」です。「パンケーキ」は生地をまぜて形にするまでが時間勝負で、修得するのは大変でした(笑)。

左から、冨居さん、加藤さん、西出さん、紅谷さん。右は人気のメニュー。

 

——お二人がお客さんに伝えたいことはありますか? 募集しているものなどがあれば、それもぜひ。


加藤:私は、ただの
場所よりも“人と人がつながる場”を提供していきたいです。将来的には、どこでも『まあるカフェ』のようになったらいいなと思いますし、地域に飛び出していくこともしたいですね。今募集しているのは、ボランティアさん。「これをやってほしい」という具体的な仕事があるのではなくて、庭いじり、ハーブを植えるなどできることで構いません。

 

冨居:私は、かつての私のようなことを考えている医療者に「こんな働き方があるよ」と伝えていきたいですね。ここは、なんでもできそうなんです。

 

紅谷:医師・看護師というツールを地域の便利な道具にしていくことが重要だと思っていましたが……、二人の手にかかるとカフェすらも良い道具になって、コミュニティをつないだり元気を引き出したりしていくんだと今感激しています。

 

——これからが楽しみですね。ありがとうございました!


取材・文:小久保よしの
写真提供:まあるカフェ 加藤瑞穂