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「待つ」ことに慣れなかった1年目から、年に約400人の利用へ。|一般社団法人プラスケア


2020.10.24

コミュニティナースのストーリー
vol.03_一般社団法人プラスケア

全国各地で展開されている「暮らしの保健室」を知っていますか?
学校の保健室のような役割をもつ空間で、予約なしで健康や病気に関することを相談したり話したりできるところです。 

2017年4月、神奈川県川崎市で初めての「暮らしの保健室」が始まりました。
ここにコミュニティナース・石井麗子さんが常駐することになったのです。今回は、石井さんに現場で感じていることなどをお聞きしました。

  • 一般社団法人プラスケア コミュニティナース 石井麗子(いしいれいこ)さん

 

コンセプトは「枠を越えてゆるくつながる」

——石井さんが常駐しているのは、どういうところなのでしょうか。

石井:私は『一般社団法人プラスケア』の正職員として、現在「向河原・武蔵小杉」の訪問診療所の3階スペース、「武蔵新城」のコミュニティスペース、「溝の口」のシェアオフィスの3カ所で活動しています(それぞれの開催日は公式サイトを参照)。このうち、「向河原・武蔵小杉」と「武蔵新城」は「暮らしの保健室」として開いています。

「溝の口」のシェアオフィスでの活動は、2017年12月から始まりました。溝の口駅から徒歩約2分のところにある、築90年の建物をリノベーションした『nokutica(ノクチカ)』です。知人がそのシェアオフィスを借りていて、私が遊びに行ったときに「まちにいてくれるナース、いいんじゃない? 試しにやってみません?」と言われて始まったんです。私はここで普段はシェアオフィスの受付として座っていて、月に一度「暮らしの保健室」を開いています。


左が石井さん。『プラスケア』には有料の会員制度もあり、
医師に無料でメール相談ができる(1年につき10通まで)などの特典がある

 

——「暮らしの保健室」とシェアオフィスの受付、二種類のスタイルがあるということですね。

石井:「暮らしの保健室」は、定期的に開催していて「やっているので来てくださいね」とお待ちするスタイルです。一日に5人いらっしゃれば多いほうですね。お一人ずつ、じっくり話しています。一方でシェアオフィスでは、みなさんがお仕事をしている状況ですので、人や場の様子を見ながら「今話せるのかな」と思えば声をかけたりして、存在を少しずつ知っていただいています。

相談内容も場所ごとに異なります。「暮らしの保健室」は、『一般社団法人プラスケア』の代表で腫瘍内科・緩和ケアの医師でもある西智弘の情報発信で知ったという人がほとんどで、特にがんの患者さんが多いです。

シェアオフィスの受付のときは、例えば「昨日呑み過ぎちゃって、お腹が痛いんですけど」と世間話のような相談ごとが多いです。ふわっとした内容だからこそ、かえって難易度が高いという特徴もあります。

共通するコンセプトは「枠を越えてゆるくつながる」。さまざまな“すでにまちなかにある場所”で、「暮らしの保健室」やコミュニティナースの機能を体験してもらっている感じです。

 

築100年の納屋を改装した「武蔵新城」のコミュニティスペース

 

「コミュニティナースが身近にいるのっていいですね

——“すでにまちにある場所”とはいえ、はじめは認知度がないなかでのスタートですよね。

石井:1年目が精神的にむずかしかったですね。私が「待つ」ということに慣れていなかったんです。それまでは訪問看護の診療所で看護師として働いていたので、はじめは「必要とされていないんじゃない……?」と思ってしまって。「まちなかの、人々の暮らしに近いところにいたい」と思ってコミュニティナースを選んだのは私なんですけど(苦笑)。

でも、少しずつ認知されていって、2年目にスタート時にたてていた目標が思いがけず達成されたんです。それは「私に会いに来てくれる人がいる」という目標でした。1年目は開催日数が66日で利用者はのべ277人、2年目は開催日数が87日で利用者はのべ394人がいらっしゃいました。とてもうれしかったですね。

 

——石井さんに会いに、多くの方がいらっしゃったのですね。印象的だったエピソードはありますか。

石井:お看取りを経験した方と、ケーキを一緒に食べたことがありました。雑談のなかで私からは「自分の気持ちと“良い悪いの判断”をくっつけないほうがいい」というお話をさせていただきました。すると、それを見ていたオフィスの方が「あなたがいてくれてよかった。コミュニティナースが身近にいるのっていいですね」と言ってくださったんです。

それを聞いて「よかった…うれしいな…」と安心しました。自分がどういうところで貢献できているのかがなかなか分からないので、そういう声が励みになりました。

 

「向河原・武蔵小杉」の訪問診療所の入口(左)、3階スペース(右)

 

——良い輪が広がっているなかで、感じている課題はありますか。

石井:「近くに『暮らしの保健室』やコミュニティナースの機能がありさえすれば、人はすぐ行くわけではないんだ」と分かりました。自分の「関わりたい」という気持ちと、その場にいる人の求めているものを無理やり合わせようとすると、かえってお互い居心地が悪くなってしまうものだと思います。

シェアオフィス内にSNSがあり、そこで情報を発信したら、コワーキングスペースで働いていた人が来てくれて、健康上の気になることを相談してくれました。私の発信や心配ごとなど、いろいろなタイミングが合って来てくださったんだと思うんです。

例え、それが正しくとも健康にまつわることの優先順位を外側から変えられる、と感じると、人はいやなのではないでしょうか。自分の仕事や趣味、家族など自分なりの優先順位がありますから。例えば、必死に仕事をしている人に対して、健康にまつわることを無理に話して「この人は仕事の邪魔をしてくる人だ」と思われてしまうと、信頼関係をつくれません。これはコミュニティナースの共通課題だと思います。だから、自分から前向きに捉えて「変えようかなぁ」という流れを自然に、一緒につくれたら良いなと思います。

また、個人的な課題もあります。現在ボランティアスタッフとして関わってくれている方たちに対価をお渡しできるようになりたいんです。お金だけでも経験値だけでもない対価で、もらってプラスになるものはなんだろう? と考えています。その仕組みがつくれれば、人も増やしていきやすいでしょう。病院で働いている看護師のなかにも、コミュニティナースの活動をしたい人は多いのではないかなと思っています。今後、そういう人を集められたらいいですね。

「溝の口」のシェアオフィス『nokutica(ノクチカ)』

プラスケアの暮らしの保健室
最新情報はプラスケアのHPをご覧ください。


取材・文:小久保よしの
写真提供:一般社団法人プラスケア