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一人の郵便局局長の思いから始まった、郵便局での健康増進活動


2021.1.20

コミュニティナースのストーリー
vol.05_雲南市 温泉郵便局

「郵便局でコミュニティナースの強みを生かしていけないだろうか」と考え、郵便局での「まちの保健室」を企画した、郵便局の局長がいます。それが、雲南市温泉地区にある温泉郵便局局長の今岡真二さんです。
彼から始まった動きは、やがて行政までをも動かすことに。郵便局とコミュニティナースの連携がしやすい環境になりました。企画に至った背景や、取り組みへの思いについて、今岡さんにお聞きしました。

日本郵便株式会社 雲南市 温泉郵便局 局長
今岡真二(いまおか・しんじ)さん


 

すでに郵便局の社員はコミュニティナース的な動きをしていた

——コミュニティナースとの出会いはいつだったのでしょうか。

今岡:2019年2月頃です。当社とお付き合いのあった『NPO法人ETIC.』さんから、コミュニティナースの活動について紹介していただいたことがきっかけでした。「何か一緒に事業展開ができないか」という話になり、雲南市役所を通じて、矢田明子さんとの出会いの場をつくっていただきました。

——2019年9月、雲南市内の郵便局の局長さんたちが「企業版コミュニティナースプロジェクト」を受けてくださいました。

今岡:私は、人口減少が進んでいる雲南市木次町にある温泉地区の郵便局で働いています。私と社員の2人で働いていて、地域の人はほぼ顔見知りです。そこでは本来の業務とは関係ないのですが、一人暮らしのご高齢者の方から「自宅の火災報知器が鳴っている」「ストーブが故障した」などと、困りごとの相談を受けることがあります。エリアや郵便局の規模にもよりますが、こういうつながりは地域の郵便局ならではなのかなと。頼っていただけることを嬉しく感じています。

また、郵便局でご高齢者と接していると、以前は元気だった方が同じ話を何度もするようになったり、2日前にお金を下ろしたばかりなのにまた下ろしに来られたりして、「もしかしたら認知症ではないか」と思うことがあるんです。そういうときは「お体、大丈夫ですか」などと聞くようにしていました。

市内には18の郵便局があります。私を含め、局長たちが「コミュニティナースとは何か」を学ぶ機会をつくろうと思いました。矢田さんから「すでに地域との関わりがある郵便局の社員さんはコミュニティナース的な動きになっていますよ」「相手を気遣う会話をすることがコミュニティナースの活動の一つです」と聞いて、なるほどと気づかされました。

そこで、雲南市で「元気になるおせっかい」を広げようと既にコミュニティナース的存在になっているまちの人たちが共に活動するチーム「地域おせっかい会議」に参加しました。メンバーは、理髪店、教育関係者、飲食店経営者、移動販売員のほか、看護師、理学療法士、助産師、鍼灸師といった医療関係者です。

 

一社員として、一住民として。「まちの保健室」の開催を提案

——「地域おせっかい会議」では何を感じましたか。

今岡:若い人たちの「なんとかして雲南市の元気をつくっていこう」という思いが強く感じられました。雲南市で生まれ育った私は、それに大きな刺激を受けたのです。お恥ずかしいのですが、個人的な反省として、それまで雲南市に長年住んでいて「地域の課題をこう解決したら、まちがもっとよくなる」という意識をあまり持っていませんでした。

「地域おせっかい会議」を応援していきたいし、自分も一員として関わることに喜びも覚えました。そこで「住民が郵便局にいらっしゃるタイミングをとらえて、コミュニティナースの強みを生かしていけないだろうか」と考え、郵便局で地域住民の健康増進につながる活動をする「まちの保健室」の開催を提案しました。つまり、会社の一社員としてと、地域の一住民として、両面で関わっていますね。

——地域の人々の暮らしに根付いている郵便局だからこそ、地域の人と自然に接点を持てそうです。

今岡:郵便局の基本的な業務は、郵便、保険、貯金の三つですが、国営時代から地域活動には関与していました。例えば、小学生が危険な目にあったときに駆け込める「子ども110番の家」や、道路などが壊れていたら郵便配達員が自治体に報告する連携などです。

また、2018年、当社と『公益社団法人鳥取県看護協会』さん、鳥取県の三者が協定を結び、その一環として郵便局で「まちの保健室」を行っている事例を知っていました。地域で活動しているコミュニティナースと一緒に開催すれば、広がりのある施策になるのではないかと思ったのです。

郵便局が公的な役割を担っていく時代

——2020年2月14日、三刀屋(みとや)郵便局で「まちの保健室」を開催しました。

今岡:2月14日を選んだのは、年金支給日が偶数月の15日で、2月はたまたま14日だったからです。高齢者がいらっしゃる可能性が高い日に設定しました。また、三刀屋郵便局の局舎は、入って左に進むと窓口ロビーが、右に進むと絵の展示などに使っているコミュニティルームがある造りになっています。よって「まちの保健室」の開催に最も適していました。

開催前、三刀屋郵便局の局長は集客について心配していましたが、3時間で60人以上がいらっしゃり、想定人数よりも多くの方が参加してくれました。それも、普段はあまり郵便局を利用していない方が、「地域おせっかい会議」のメンバーから聞いて数多く参加したそうです。お客さま側からも郵便局側からも「楽しかった」という感想を聞きました。

その「まちの保健室」の成功がきっかけになり、2020年10月、当社と『Community Nurse Company株式会社』さん、雲南市の三者で協定を締結しました。

——この締結により、連携がしやすくなるのでしょうか。

今岡:そうですね。もともとは「地域とともに歩む郵便局」として、地域が抱える課題の解決に向けて関与できるところはないかと力を入れています。関係局長と話しているのは、新型コロナウイルスの収束後になると思われますが、まずは市内の各局で「まちの保健室」を開催する方法と、三刀屋郵便局で継続していく方法を考えています。お客さまの定着を考えれば、同じところで続けて開催するのは有効だろう、と。

——「地域とともに歩む郵便局」。

今岡:全国には約2万4000の郵便局があります。過疎が進んでいる地域でも郵便局は存在しています。手前味噌ですが、「郵便局を残してほしい」という地域の声もあるそうです。単に郵便などの手続きができる機関というだけでなく、人とのつながりができるよりどころとして位置づけていただいているのではないでしょうか。郵便局側も、そういう役割が担えればと考えています。

今、過疎地では自治体の支所を撤廃させていくところもあり、その地域の郵便局が住民票の交付などの行政事務を受託する取り組みを行っています。郵便局が自治体と相談しながら、本来の業務に加えて公的な役割を担っていく時代の到来です。全国各地で既に始まっていて、検討・調整中のところもあります。

——今後はどのようなビジョンを描いていらっしゃいますか。

今岡:2021年4月からを目指して、郵便局の健康ステーション化に取り組んでいきます。具体的には三つあります。一つ目が「局内のスペースを活用した地域活動への協力」です。イベントスペースがあるところで、マルシェなどができないかと考えています。二つ目が、先ほどもお話しした「まちの保健室」です。

三つ目が「郵便局の得意を生かした生活課題解決」。例えば当社には「郵便局のみまもりサービス」という商品があります。月に一度、高齢者宅を直接訪問し、生活状況や困りごとをお聞きして、顔写真も撮影し、状況を離れて暮らすご家族にご報告するサービスです。まだ数は少ないのですが、雲南市でもお申込をいただいています。

『Community Nurse Company株式会社』さんでも、高齢者の健康増進・見守りサービス「お元気応援隊ナスくる」という素晴らしい事業をやっていらっしゃいます。また、郵便局では、普段からお客さまとお付き合いをしている分、関係性はできています。今後、お互いの強みを生かして連携していければいいですね。

 


取材・文:小久保よしの
写真提供:Community Nurse Company株式会社、雲南市役所