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イベントレポート|地域共生社会のはじめかた
〜制度と実践から考えよう〜[後編]


イベントレポート
2020.12.5

誰もが誰かを支え、誰かに支えられて生きている――そんな気づきから生まれた「地域共生社会」というコンセプト。その実現に向けた大きな一歩となる「重層的支援体制整備事業」が2021年4月から始まります。

Community Nurse Companyでは、この制度をつくった厚生労働省の國信綾希さんと、千葉県松戸市で人と人とのつながりを通してまちを元気にする活動を行っている松村大地さんをゲストにお迎えして、制度と実践が両輪となって地域共生社会を実現する未来が見えてくるオンラインイベントを2020年8月30日に開催しました。イベント前半では、事業の成り立ちと内容について、また地域共生社会に向けた松戸市と雲南市の実践事例についてご紹介いただきました。

このイベントレポート後編では、イベント後半のフリートークで寄せられた質問に、登壇者がまとめてお答えします!


◉地域共生社会のはじめかた〜制度と実践から考えよう〜[後編]

もくじ

1.制度をつくる側の孤独感は、対話で感じるやりがいが消してくれる
2.生活の動線に入るコミナス式は、理想的なアウトリーチ手法!
3.短期的には失敗でも、粘り強く関われば進んでいく
4.重点的支援体制整備事業についてのQ&A
5.地域共生社会についてのQ&A

*スピーカー紹介は[前編]レポートをご覧ください。


制度をつくる側の孤独感は、対話で感じるやりがいが消してくれる

漆畑 ここからはゲストの皆さんに私から質問させていただきます。
まず國信さん、厚労省の方と会って話をする機会って一般的にはあまりなくて、どういう人たちがどういう思いで国の制度を作っているのか、なかなか外の人には伝わりにくいと思うんです。今日はいい機会なので、どういう気持ちで仕事をされているかとか、やりがいを感じる部分を教えてもらえませんか。

國信 官僚の立場からすると、私たち1人ひとりの思いに関心を持ってもらえることなんてあるんだろうか?という孤独感、自虐的な思いがあります。でもそれは、私たち官僚側からの発信が少なかったことが原因。だから今、新型コロナウイルス感染症の流行でオンラインイベントが増え、若手官僚として話をさせていただく機会も増えたことで、その思いは払拭されてきました。

私たちは、もちろん官僚として国の言葉を話しますが、一方で、これまで培ってきた経験から出てきた、自分自身の言葉を話すこともある。後者の言葉に共感してもらえた時に、ああ、私だけが悶々としていたわけじゃなかった、孤独じゃなかったんだと思えるんです。そのうえ期待もしてくれていることがわかって、何日も寝ないで仕事をしてきてよかったな、なんて、やりがいのようなものを感じるようになりました。これは10年くらい官僚として働いてきて、ようやく感じられることかもしれませんね。そういう意味で、今日皆さんがこうして集まってくれたことも、すごくうれしいと思っています。

 

生活の動線に入るコミナス式は、理想的なアウトリーチ手法!

漆畑 地域共生社会の説明で、コミュニティナースと相性がいいという言葉がありました。もうちょっと具体的にいうと、どういうところが相性がいいんでしょう?

國信 重層的支援体制整備事業の制度設計は、コミュニティナースの「暮らしの動線に入る」という振る舞いを参考にさせていただいたんです。この事業ではアウトリーチをする人員配置のための補助金がありますが、ここで想定しているアウトリーチは、その人の暮らしを変えるのではなく、その中にスッと入っていくというもの。まさにコミュニティナースです。たとえば、忙しくてアウトリーチする時間がないような現場でも、たとえば支援者が退勤後にスーパーに買い物に行って、気になる人と出会って…というプロセスで暮らしの動線に入ることならできるのではないか。そういうあり方は支援者も救うと思うんです。
矢田 おせっかい会議に参加してくれているスナックのママなんかは、すでにアウトリーチしているよね。暮らしの動線に入っていくというよりは、暮らしの動線そのものの人たちにコミュニティナースになってもらうことを私たちはやっています。

 

行政には、縦割りを脱する行動が求められている

佐藤 重層的支援体制整備事業では、自治体が自分たちの地域に合わせて、財政運営で知恵を絞ることが求められています。確かに、そのような自由度が担保されれば、コミュニティナースとの相性はいいでしょう。でも財源にこだわりすぎるのもどうかと思っています。僕は、おせっかい会議は、どちらかといえば行政ではなく市民活動に近いものだと捉えています。自治体として補助金を出せるようになったとしても、そこは守っていきたい。

矢田 松村さんの活動は、財源はどうなっているの?

松村 僕はNPO法人まつどNPO協議会に所属している中で、指定管理として関係の市民自治課と委託という関係の高齢者支援課などそれぞれ関係性があって、さらに2020年今年新設された地域共生課とも連携をしています。僕としては、特定の部署のお金を使っているという意識はないですね。行政も、今年くらいから、ようやくそういう意識……縦割りから離れた感覚になってきたのかもしれない。特にこの新型コロナウィルス感染症の流行下では、住民側の行動を見て、それが求められていると気がついたのだと思います。

佐藤 コミュニティナースと一緒に仕事をして、雲南市にもそのような変化が起こりましたね。最近、地域振興と教育と福祉の部署の若手職員がやたらと話をしていますよ。

國信 そういう動きを促進していきたいですね。松村さん、松戸市では、縦割り組織に縛られない動きを行政が主導していたのですか? それとも松村さんから働きかけた?

松村 行政にも主導してもらいつつ、自分でも働きかけつつ……という感じですかね。最近、「ぶっちゃけ」という言葉を行政の人がよく使ってくれるようになって。ぶっちゃけができることこそ、人と人の関係性ができたということなのじゃないかな。

國信 ぶっちゃけっていいですね。重層的支援体制整備事業は、まだ国としても検討過程で、皆さんにわかりづらいかもしれないと思っています。今は、そのことを愚直にさらけ出して、迷いながらも自治体の皆さんと運用について話し合っています。その関係が大事なんだと思う。皆さんから疑問を呈していただかないと、国として成長しないから。

矢田 新しい制度ができあがるたびに、「こういう運用がいいんじゃないですか」と佐藤さんたちのような志ある行政マンたちが国に言いに行っているよね。雲南市では、行政の人も、おせっかい会議から出てくる事例を「そんなもんつまらん」と言わないでおもしろがって見てくれる。今までの言葉で言えば互助だけど、「それって豊かだよな」と思ってくれる。そういうところからアイデアを得て、制度に昇華してくれるのだから、行政の人たちに勇気を与えるのも私たちの役割かもしれないね。

國信 やりたいという思いが、原動力になります。私たち官僚が国に提案を上げていくときに、現場の方のいろんな風景や表情が浮かんでくると、私たちも自信をもって動けるんです。

 

短期的には失敗でも、粘り強く関われば進んでいく

矢田 おせっかい会議もいろいろ模索しながらやっているんだよね。たとえば、難病のある人の支援にタクシー運転手やスーパーの店員が入ったら、自立支援給付で利用していた介護事業所とコンフリクトが起きたことがあった。こういうことは短期的に見れば失敗に思えるけど、今もそのケースに粘り強く関わり続けている。

古津 その方は、スナックのママをやっていて、以前から私が訪問看護もしていました。でも、スナックで使う食べ物を買いに行くお手伝いが制度内ではできないことで困っていた。そのことをおせっかい会議にかけたら、スーパーの店員さんや福祉タクシーの運転手さんが手を挙げてくれて。実は、それまでは、スーパーの店員さんに荷物運びを頼むと嫌な顔をされていたんだけど、おせっかい会議以降はすすんで運んでくれるようになったそうなんです。

そのことを知った介護事業所が、「このままでは自分たちにも制度外の要求をされるんじゃないか」と、おせっかい会議に苦情を言ってきたんです。そこで、この人は最期までスナックをやりたい思っていて、そのことが生きがいになっているのです、決してむやみに制度外のサービスを勧めているわけではないのです、というようなお話をしたらわかってくれて。それからは介護事業所に都度お伺いを立てながらやっています。そうすると、徐々にケアマネジャーさんも歩み寄ってきてくれます。

 


漆畑 ここからは、視聴されている皆さんからチャットに寄せられた質問に答えていきます。

重層的支援体制整備事業についてのQ&A

Q.地縁・血縁・社縁とは違う「第4の縁」の具体的エピソードを教えてください。

國信 この重層的支援体制整備事業を作るとき、全部で40ほどの地域とNPOの方に厚労省に来ていただいて、頭をまっさらにしてひたすらお話を伺うということを2ヶ月くらい続けました。その皆さんのお話で共通していたのは、「若くてよそ者」がやっていて、「ワクワクドキドキから始まる」、「最終的にはその人の隣に寄り添う」活動が、広がりを持っているということだったのです。久留米市や滋賀県などの取り組みですね。

「個人とつながりたい」という活動の積み重ねでできている取り組みが、行政の制度からは作れない強固なつながりを生み出している。この方法は対人支援に向いているだけでなく、地域の持続可能性にもつながっていきます。ぜひ、国として光を当てたいと思ったのです。

Q.重層的支援体制整備事業と「社会的処方」、コミュニティナースと「リンクワーカー」とはどんな関係があるのでしょうか?

國信 社会的処方は同じ厚労省の管轄で、今、動きがあるので、興味をお持ちの方も多いのかもしれませんね。地域共生社会は、厚労省全体をカバーするビジョンです。そのビジョンの実現に向けた取り組みの中に、重層的支援体制整備事業も、社会的処方もある。
ただし社会的処方を具体的な形に落とし込んだときに、どのような制度になるかはまだわかりません。もし共通のビジョンがない制度になりそうだったら、私からビシッと言いたいと思っています。

漆畑 これは僕の個人的な解釈ですけど、リンクワーカーは病院やクリニックにいて、薬を処方するように地域活動につなぐことが仕事です。コミュニティナースの活動場所や内容はもっと多岐にわたっています。病院とかクリニックにいるわけではなく、悩みを持った患者さんに対応するのでもなく、地域の中で住民とただ出会うのがコミュニティナース。コミュニティナースはリンクワーカーのような仕事をすることもあるかもしれないけど、それだけではないですね。

Q.介護保険料への影響はありますか?

國信 一体的に事業をやるといっても、介護保険料には影響ありません。相談支援に地域包括運営事業も入っていますが、予算の計上は全体の相談支援の事業にかかる事業費を積み上げて、過去の実績で按分して、機械的に、この分野に使ったとみなすしくみです。

Q.縦割り事業を束ねるとなると、所管部署はどこになるでしょう?

國信 実施主体は市町村です。都道府県は市町村の事業の予算面の補助を行います。あとは、包括的な支援を進める後方支援の役割ですね。具体的には市町村間のネットワーク構築や人材育成、ICT化などです。

Q.地域循環共生圏など、他省庁管轄の制度とのかかわりはどのようになっていますか?

國信 他省庁では、それぞれの政策分野で、たとえば、地方創生、地域循環共生圏、定住自立圏構想、まちづくり会社など、さまざまな施策が打ち出されています。本来であればそれらを受け止める地域は“一(イチ)”なので、省庁連携して地域の持続可能性を維持する、ケアしあう地域に向けた議論をし、ワンボイスで見せていく努力が必要なのだろうと思っています。関係省庁間で検討会に呼びあい、地域づくり人材の育成・研修の観点でノウハウを共有するなど、地道ですが、取り組みは進んでいます。また、若手職員間ではそれほど縦割り意識も強くないので、同年代のつながりが、いずれは大きな波になることも期待しています。

 

地域共生社会についてのQ&A

Q.大都市圏には多様で多数の利害関係者がおり、共通の意思形成が困難です。また人口流動性も高く交通の便もよいために、物理的な近隣への関心が高まりにくい。そうした地域における共生社会の実現に向けて、キーとなる動き方、考え方を教えてください。

漆畑 私の活動地域は東京都北区です。確かに狭い地域に複数のコミュニティが存在し、利害関係もあってと意思決定での苦労も経験しました。そんななか、利害を越えてつながれるのは、行政か学生、あとは地域の皆さんが一目置いている人(ステークホルダー)の声だと思います。特にステークホルダーの方は、その地域に存在する複数のコミュニティとつながっているので、まずはご自身の地域のステークホルダーを探されるといいと思います。私の団地では商店街の会長さんがそうでした。

Q. もともとの地域共生社会や生活困窮者自立支援事業の議論では、「社会福祉協議会」がキーになっていましたが、実践報告にあった松戸市や雲南市の活動では、社会福祉協議会とどのように関わっているのでしょうか?

松村 福祉など、社会福祉協議会が関連するテーマの活動に対して、プレーヤーの1つとして関わっていただいています。

古津 雲南市でも、社会福祉協議会さんが幅広く福祉分野を担っています(http://unnanshakyo.jp/ )。社会福祉協議会さんとおせっかい会議の関係は、取り組みを理解していただき、いい相乗効果が出るようモデル地域の福祉推進員さんへの広報・周知にもご協力をいただきました。

おせっかい会議の特徴として、健康おせっかいを焼きたい市民誰もが個人として参加でき、おせっかいができるようになることを目標に置いています。そのため、現場レベルでは、こうしたおせっかいを焼きたいと集まった皆さんのおせっかい心を応援するという形で、まちで活動する民生委員さんや福祉推進員さんの知恵をお借りしたり、一緒にアイデアをブレストしたりと連携を始めています。

Q.現状、地域共生社会のモデル事業をしていない自治体がこれから取り組むとしたら、何が突破口になるでしょうか?

古津 医療福祉分野で何かを始めることはハードルが高いため、たとえば起業塾やまちづくりの取り組みから活動してみるという方法があります。

 


オンラインイベント中、チャットへの質問も多岐に渡り、イベント時間内にお答えできなかったものもたくさんありました。
上記以外のQ&A、アンケートでいただいたQ&Aは、リンク先にまとめましたので、別途ご覧ください。

※記載の内容は、2020年8月30日のイベント当日のものです。制度に関することは、最新の情報をお調べください。
※各地の取り組みについても、情勢や環境要因で変化があることをご了承ください。


グラフィックレコーディング:石井麗子
運営サポート:齋藤 和輝、山賀雄介