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「これは地域に必要や!」。県として日本で初めてコミュニティナースを導入した奈良県のスーパー公務員


2021.5.29
コミュニティナースのストーリー
vol.07_奈良県奥大和地域

県がリードする形で複数の地域にコミュニティナースを導入した、奈良県。“コミュニティナースの先進地”の一つです。
2021年5月現在、県内の各市町村に所属する4名のコミュニティナースがいるほか、vol.4の記事で紹介した中山一代さんなどのように民間の立場で活動するコミュニティナースもいて、計9名が活動しています。
コミュニティナースを導入した立役者であり、2021年3月末まで奈良県知事公室次長を務めていた、福野博昭さんにお話をお聞きしました。

県庁の内部のプレゼンで「成果を上げます!」と宣言

——はじめに、コミュニティナースに出会った経緯を教えていただけますか。

福野:2016年秋に島根県へ視察に行ったとき、知り合いに矢田明子さんを紹介してもらったのがはじまりです。そのときは別の団体の視察だったので、直後に改めて会って、話をじっくり聞かせてもらいました。

彼女がお父さんを亡くして看護師になったという個人的な話から、コミュニティナースの概念まで聞いて、もう感動してしまって。実は、感動のあまりその場で泣いてしまったんです。「これは地域に必要や!」と思い、県として導入しようとすぐ決めました。

——都道府県の自治体がコミュニティナースを導入している例はありませんでした。福野さんは当時、県の地域振興部の奥大和移住・交流推進室にいたのですよね。

福野:はい。移住や交流を促進する部署ではありましたが、移住者や関係人口をただ増やすのではなくて、奥大和(奈良県の南部・東部の19市町村のこと)に住んでいる人に「ずっとここで暮らしたい」と思ってもらい、地域を元気にするのが自治体職員の目標です。

コミュニティナースはみんなが生き生きと暮らすきっかけになるし、お互いに「支えよう」となるかもしれない、と考えました。

——その出会いから導入が決まるまで、数ヶ月だったそうですね。県庁という大きな組織で、すぐに話が通ったのですか?

福野:県庁の内部でプレゼンしたとき、はじめは「既存制度の地域包括ケアなどでカバーできているのでは」という声があがりましたけど、「いやいや、そんなんちゃうやろ」と思って。それは介護保険や医療保険を使っている人の話で。

病院に行かずに、医療保険にも介護保険にもかかっていない人たちがいて、その“空白”に働きかけて健康にするのがコミュニティナース。病気を早期発見することによって医療費も削減できる。そんな話をさせてもらいました。

県知事も、地域に入りたいコミュニティナースがいるのか、都会に比べて不便なところでコミュニティナースが活動を続けられるのか、心配していたので、「世の中にはこういうことにチャレンジをしたいと思っている人がいっぱいおるんです。やらなあかんことですし、制度をつくって成果を上げます!」と宣言したんです。

熱くなって机をバン! と叩いて「日本にはまだコミュニティナースの概念がないけども、それを奈良県として進めていきたいと考えています! やらせてください!」とも言いました。一瞬シーンとなったけど(笑)、「やってみましょうか」となったんです。

福野さん(写真左から二人目)と、コミュニティナースの導入や運営に関わる県庁の皆さん

 

——2017年4月から一人目のコミュニティナースが山添村に入って、川上村、天川村など、次々と導入されました。

福野:矢田さんと共に、奥大和のいくつかの市町村の首長に直接話をしに行きました。もともといろいろな事業で関係性があり、信頼もしていたので、「やろうや!」「よしやろう!」みたいなところばかり(笑)。すぐに理解し、導入してくれました。

特に川上村は、「かわかみらいふ」事業という名前で、移動販売などで地域経済循環を目指す会社を始めていたので、移動販売車にコミュニティナースが乗って村を回ることになったんです。

川上村では移動販売車にコミュニティナースが乗って、村をまわる

 

買い物など、日常でよくしゃべる相手が医療知識をもっていて「顔色悪いんちゃいますか?」とか「血圧下がってんちゃうん?」とか言われたら、うれしいし、(言われたことを)信じて行動にうつしやすいはず。そういう人がどんどん増えたらええなって。いいモデルが生まれました。

市町村に所属して活動している人や、それを経て地域で起業し活動している人などがいて、現在は、奈良市、桜井市、御所市、山添村、川上村、天川村、五條市、大淀町で計9名が活動しています(詳細はこちら)。

 

育成事業にも尽力。退官した今も何ができるか考えている

——地域の現場にコミュニティナースを送る一方で、県として、育成するための講座も積極的に開催されています。

福野:コミュニティナースカンパニーさんが東京で開催されている養成講座「コミュニティナースプロジェクト」に行かせてもらって、奈良でもやろうと、2018年から「奥大和コミュニティナース養成講座」を開催しました。でも、カンパニーさんのほうとかぶるので、2020年度から少し変えたんです。

奈良県では、初めてコミュニティナースについて学ぶ人向けの入り口となる「基礎講座」と、過去に養成講座を受けて活動をしてきた人たちが対象の「ステップアップ講座」と、段階ごとに参加できるようにしました。毎回、15〜20名くらいが参加してくれています。

 

五條市でコミュニティナースをしている桝田采那さんは、趣味のカメラで地域の撮影も行う

 

——どんな人たちが参加しているのでしょうか?

福野:受講生は奈良県在住者や奈良県での活動希望者に限らず、全国の人を対象にしたので、各地からいろいろな人が集まりました。奈良の人は約4割。県内でコミュニティナース活動をする人は、基本的に講座を受けることが必須条件になっています。

個性的な人が多かったです。講座終了後、兵庫県尼崎市にある杭瀬中市場の食堂でコミュニティナース活動を始めた人がいたり、講座をきっかけに東京都在住なのに奈良県・吉野町の物件を買って「コミナスcafé&bar」をした人がいたり、めっちゃおもろいなと(笑)。物件を買った人は「いつか吉野町に住みます」って言ってくれて、思わぬところで関係人口が生まれました。

——導入したとき、これほど広まると予想していましたか?

福野:いや、もっと広げたいなと思っているくらいで。2021年3月末に退官しましたが、自治体だけじゃなく、医療法人や福祉法人、東洋医学系、山間部でもまちでも、古いニュータウンでも、みんなもっと導入したらいいのになと。よく考えているのは、コミュニティナースがこれを仕事としてやっていくのかどうか。

天川村でコミュニティナースをしている山端聡さん(写真右)。養成講座でも活躍している

 

——コミュニティナースのことを、深く考えていらっしゃるんですね。

福野:(コミュニティナースの)みんなは「こうせなあかん」って思いやすいけど、広げたらいいんじゃないかと。例えば、コミュニティナースが村でカフェを開いてランチを提供するとか、山やアウトドアのガイドをしながらコミュニティナース活動をするとか。

別にコミュニティナース専業じゃなくてもいい。日頃、普通にナースをしている人たちが休日にちょこっとできるようなことでも。それを組織化したり、アプリを使って技術力で簡単に実現できたりしたらいいなと、ずっと考えているんです。

今はコロナ禍で、みんなマスクして健康に気遣っているから「チャンスやん」って思っています。今後もコミュニティナースを広めるお手伝いができないか、考えながら動いていきますよ。

(クレジット)
取材・文:小久保よしの
写真:佐々木哲平