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福井市近郊で始まる、健康のための新しいまちづくり「ナスくる」。地域の人にとって、健康な暮らしがサポートされる選択肢を増やしたい


2021.6.29
コミュニティナースのストーリー
vol.08_福井県福井市『つながるクリニック』

 

『医療法人社団オレンジ(Orange Medical & Social Services)』に属する、福井市の診療所『つながるクリニック』が、「ナスくる」という新サービスを始めます。Vol.02の記事で紹介した『一般社団法人Orange Kids’ Care Lab.』との関連法人です。

ナスくる」とは、コミュニティナースが自宅を訪問し健康増進への働きかけや対話を通じて、地域の人々により健康に過ごしてもらうための、家族や地域社会でつくる新しいサービス。すでに島根県松江市・出雲市・雲南市・安来市、鳥取県米子市、愛媛県久万高原町、埼玉県熊谷市などで始まっています。

『つながるクリニック』の看護師であり、同法人で訪問看護を行う『地域看護ステーションみかんの木』の管理者でもあり、同法人に所属する福井県の看護師のマネジメントもしている勝見愛子さんにお話をお聞きしました。

 

「そもそも地域看護師とはなんだろう?」と考えるように

 

——はじめに、コミュニティナースに出会った経緯を教えていただけますか。

勝見:私は看護の専門学校を卒業し、総合病院で看護師として9年間勤めた後、6年間は専業主婦になりました。その後1年半、特養(特別養護老人ホーム)で施設看護師をしていたときに、そこの嘱託医だった紅谷浩之先生に出会ったんです(参考:紅谷さんはVol.02の記事に登場)。

特養は「生活の場」であり、そこでの看護師としての仕事は医療や看護というよりも入居者の生活を手助けし、支えること。「生活のお手伝いをする看護師っていいな」と感じていたので、地域に密着したさまざまな取り組みをされている紅谷先生に出会って『医療法人社団オレンジ』に就職しました。2012年のことです。
入ってみると、『医療法人社団オレンジ』の看護師は「地域看護師」と名乗って活動していました。それを見て「そうそう、それがやりたかった!」という感覚でしたね。

『つながるクリニック』は現在、仮設診療所で診療中。最近の診療中の様子

 

でも「地域看護師ってなんだろう?」と改めて考えるようにもなったんです。訪問診療の仕事をしながらそれを調べるうち、東京で秋山正子さんが実践されている「暮らしの保健室」の存在を知りました。

うちのメンバーが「誰でも気軽に来れる拠点づくりをしたい」と言い、見学に行って福井市内で3箇所立ち上げました。今「みんなの保健室」という名称で平日はほぼ毎日開いています。私も立ち上げ期には入っていました。

その頃に、検索していてコミュニティナースのことも見つけたんです。2017年に、「コミュニティナースプロジェクト」の5期を受けました。受講生が全国から集まっていて、それぞれが各地で模索していることが分かり、励まされましたね。

訪問診療でご自宅にうかがった際の一枚。ご本人とそのご家族、訪問看護師など連携先のメンバーも一緒に。
写真左が紅谷先生

 

——病院や特養を経て地域看護師になり、その形を模索していてたどりついたのですね。

勝見:はい。一方で同期生のみなさんの姿を見ていて“ある迷い”が強くなっていきました。私は自治体などではなくクリニックに所属していますが、「自治体所属など、地域の人たちに近い位置にいるほうが『コミュニティナース』なのでは」と思っていて……。いる場所が違うから、自分はなんとなく地域寄りじゃない気がするんです。私たちはクリニックの決まった業務があり、時間の制約があるため、地域に飛び出していく自由が少ない。

地域の人から見ても、クリニックにいる看護師はあくまで看護師です。まず「『つながるクリニック』の看護師さん」という見方をされます。こんななかで「自分たちをどう動かしていったらいいんだろう?」と。この疑問は、正直に言うと、まだ抱えています。

『つながるクリニック』で(以前の建物)、患者さんと談笑中の勝見さん

 

4市1町を対象に、まもなく「ナスくる」をスタート!

 

——そうした疑問を解決していくのが「ナスくる」になるのかもしれませんね。地域の人にとって、イメージが変わるきっかけになるでしょうし。

勝見:「ナスくる」は、他地域でスタートした事例を見て知りました。実は以前から当クリニックでは、予防的な介入として、外来で大きな病気になる前の人たちに出会って予防的視点を伝えようという動きをしていました。気になる人がいれば、看護師や事務スタッフがお宅を訪問したりすることをボランティア的にやっていたんです。

だから、地域の人のためになり、私たちにとっては持続可能な形にもなる「ナスくる」はただのサービスというだけでなく、繋がりながらみんなで元気を育てていく、新しい社会システムづくりへの挑戦だと思いました。『医療法人社団オレンジ』と『コミュニティナースカンパニー』で契約を結び、立ち上げの支援をしていただいています。2021年7月にスタートする予定で、福井県福井市のほか、勝山市、大野市、坂井市、永平寺町の4市1町からまずはスタートする予定です。看護師やケアクラークなどがチームで対応していきます。

毎月1回ランチに行っていた、あるご夫婦と勝見さん(写真左)。ご夫婦とも逝去され、大切な思い出の一枚に

 

——「ナスくる」によって、患者さんや地域の人にとって選択肢が増えるわけですから、いいですね。

勝見:そうなんです。医療保険で訪問看護をするには病名が必要ですし、やれることが決まっています。それに「まだ早い」「いらない」と抵抗感を持つ方も多いです。でも「ナスくる」は「ご自身の楽しみを一緒にやらせてください」「家族にみなさんの元気を報告しますよ」という、違う提供の仕方です。

こういう言い方は適切ではないかもしれませんが、私は「お友達感覚で気軽に利用していただけたら」と思っています。訪問看護適応の人も「ナスくる」が使えたら、より手厚く充実したサービスが受けられますよね。

2022年1月から『つながるクリニック』は新しい建物になり、『まあるカフェ』に続く2店舗目のカフェが同じ建物に入り、『パーソナルジム』も入ります。カフェスタッフやケアクラークとも関わることになるので、ほかのスタッフが「ナスくる」に興味を持てば参加できるようにしたいですね。

vol.2の記事で紹介した、コミュニティナースがいる『まあるカフェ』

 

——どんどん広がりそうで、今後のご活動が楽しみです。

勝見:これまでは特に看護師ではないスタッフが、(ボランティア的に)いいことをしているのに、なんとなく「いいのかな」と迷いながらやっている感じがありました。地域のみなさんの健康を支え、豊かな生活を一緒に楽しむ考え方は、立場は関係ありませんから「看護師じゃなくてもいいんだよ」と伝えていましたが、いくら言っても自信がない様子があって。

でも実際に行くと「楽しかったわ!」とスタッフ自身が喜んでいて、地域の人も「また来てね」などとおっしゃり、いいやりとりをしていたんです。「ナスくる」は、看護師ではなくても、みんなが堂々と活動できる形で進めていきたいと思っています。

私の役割はチームをつくって回していくこと。メンバーそれぞれの背景や強みを活かし、補い合えるように、これまで培った知識を出していきたいと思っています。

 

『つながるクリニック』で活動中の看護師と医師、ケアクラーク。「ナスくる」を共に展開していく大切な仲間たち

 

(クレジット)
取材・文:小久保よしの
写真提供:勝見愛子